「蘭著待(らんじゃたい)」と「一木四銘香(いちぼくしめいこう)」

「あぷりのお茶会 赤坂・麻布・六本木」へようこそ!

 

 

 

日本最大の香木

さてさて、前回は香木の分類「六国五味」を
御紹介しましたが、今日は名香のお話です。

 

この写真御覧になって、一瞬
「これはなんじゃいな?」とお思いでしょう?

 

 

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実はこれ、正倉院にある香木なんですよ。
現在日本にある香木で最も大きいもので
名前は「蘭著待(らんじゃたい)」といいます。

 

もっとも「蘭著待」という名前はこの香木の
雅号であって、正倉院での宝物目録の名前は
「黄熟香(おうじゅくこう)」というそうです。

 

大きさは1メートル50センチほどもある
そうで、直径は一番大きい所で37,8センチ。
重さがすごいです、11,6キログラムもあります。

 

 

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誰かが持って行っちゃったから……

こんなに大きいのですが、それでも最初からみると
2キログラムほど、減っているといいます。

 

なぜかといえばね、権力者が少しずつ
削って、持っていってしまったから。

 

権力者とは、足利義満、足利義教、
足利義政、織田信長、明治天皇らだそうです。

 

それぞれが、どの部分を削っていったか
という記録まで残っているそうな。

 

2006年の大阪大学の米田該典(よねだかいすけ)
准教授の調査により、合計36カ所の切り取り跡
があることが判明しています。

 

 

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「蘭著待」って面白い形をしているね

木の中心あたりがごっそりとなくなっているのは
権力者たちが削り取った跡ではないそうです。

 

これは香木が樹脂化していない、香木
としての質が劣る部分ですので、あらかじめ
ノミで削って中空にしているのだとか。

 

ただし、この「蘭著待」は残念ながら
一般の人は見ることができません。

 

 

04-ranjatai

 

 

もっとも、もしこの香木が、その辺に
転がっていたら「ボロボロの木……」
と思うだけかもしれませんが。

 

それに何とも形がヘンで、まるで捕獲
してきた水鳥を木彫で作っている最中、
とでもいうような感じがしませんが?
左の方がくちばしっぽくて。

 

 

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「蘭著待」の中にかくれんぼ

そうそう、いい忘れてしまいました。
これが一番いいたかったことなのに……。

 

「蘭著待(らんじゃたい)」という名前のこと
なのですが、「蘭著待」の3つの文字を見てね。

 

 

源氏香「胡蝶」

 

 

「蘭」のなかには「東」という字
が入っているでしょう?

 

「著」は、ちょっとわかりにくい
のですが、真ん中あたりに「大」の字。

 

そして「待」はすぐわかりますね、
右に「寺」の字。

 

この「蘭著待」の中に隠れていた文字をつなげると
「東大寺」となるというわけでした、終わり。

 

 

131005sougetukaikan5fsekitei赤坂「草月会館」5階日本間

 

 

 

一つの香木に四つの名前

お次は、名香中の名香と
いわれるお香のお話です。

 

先ほどの「蘭著待」は、名前の中に東大寺
という文字が隠れている名香でしたが
今度、御紹介する名香は
名前を4つも持っている香木です。

 

香木は普通、一木一銘ですが、この香は
一木四銘香(いちぼくしめいこう)。
もちろん、最上級の香りという
ことですので「伽羅」の香木です。

 

 

源氏香「朝顔」

 

 

この名香と呼ばれる香木は、
17世紀に初頭に長崎に輸入されたといいます。

 

その後、いろいろありまして
香木は分けられることとなり
名家三家と宮中にいくことになりました。

 

それらの名香は現在でも、それぞれのお家
で大切に守られているということです。

 

 

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細川家所蔵「白菊」
(写真/「永青文庫美術館」)

 

 

 

「初音」「芝舟」「藤袴」「白菊」 

加賀前田家の所持の香木は
「初音(はつね)」と名付けました。
仙台伊達家所持の香は「柴舟(しばふね)」。

 

宮中では「藤袴(ふじばかま)」
肥後細川家、所持の香は「白菊」と
それぞれが風雅な銘をつけられました。

 

 

源氏香「夕顔」

 

 

「藤袴」は「蘭」という銘だとも
いいますし、四つの家にある香木の銘は
これとは違うという説もあります。

 

はっきりいって、どちらのお家に
どの銘の香があるのかはわかりませんが
どちらにしても、もとは同じ香木です。

 

 

源氏香「鈴虫」

 

 

 

「目利き」ゆえの執着 

こうして一木四銘香は、いずれにせよ風雅な
銘を持つことになりましたが、この香木を
巡って風雅ではないことも起こっています。

 

この香木の買い取りを巡って、家来同士の
意見が合わずに、なんとついに一人の武士が
相手を斬り殺してしまったといいます。

 

人を斬り殺してしまった人は、のちに
自責の念で結局、自ら切腹をしました。

 

いかに名香といわれる香木であっても、その
ために、2人の人が命を落としているとは……。

 

 

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赤坂「草月会館」5階日本間

 

 

 

美しさを愛しんでもとらわれない心

以前、読んだ小説の中に書かれていたことで
とても共感を覚えたことがあります。

 

そのお話は、瀬戸物の話でしたが、いわゆる
「目利き」という人について書かれたものでした。

 

目が利く、他の人よりも良いものがわかる、
あるいは本物がニセモノかの見分けがつく、
ということは普通は良いこととして考えられて
いますし、また事実そうでもあります。

 

ところが、その良いものがわかるという
能力があるが故に、良いもの、本物である
素晴らしいものを手に入れたいという欲も
同時に生まれてしまうのです。

 

 

この袱紗の中にも
「朝顔」「胡蝶」「夕顔」「鈴虫」
の4つの源氏香がかくれんぼしています

 

 

それをお説教風ではなく、少々そら恐ろしいと
感じるほど、巧みに表現されていた小説でした。

 

その時に私は、本物を見分けることができる目
とともにまた、それへの所有欲の空しさも
忘れないでいようと思ったことを覚えています。

 

美しいものに対して、誰もが持つ憧れと愛着。
しかし、それが執着にはならないようにと。

 

 

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泉屋博古館所蔵「犬張り子香合」
こんなかわいい香合が欲しいです。
おっとっと……

 




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