六国五味(りっこくごみ) 香木の分類

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久々にお香のお話など…… 

前回、お香のことを書いてから
一年が過ぎてしまいました。
そのうちに、なんて思っているとすぐ半年、
一年が過ぎてしまっているのですね。

 

ちょっと、焦ります……。
こんなことをしていると、あっという
間に一生が終わってしまうぅぅ。

 

ということで、今日はちょっとお香のお話を。

 

前回、お香を聞く、聞香(もんこう)って
こんなふうにするんですよ、と(本当の香炉
ではなくローゼンタール〈魔笛〉のボウル
でしたけど)お見せしました。

 

この灰の上に乗っている四角いものは
「銀葉(ぎんよう)」
といって、雲母で出来ているものです。
下の写真でいいますと、真ん中にあるのが「銀葉」。

 

 

130312ginyou香炭団   ・銀葉 ・香木
(こうたどん)(ぎんよう)

 

 

「銀葉」の上に乗っているのが「香木」。
みぎぃさんに「ちっちゃっ!」といわれてしまい
ましたが、これはちょっと小さ過ぎたかもです。

 

とはいえ「香木」は基本的には
そんなに大きくはありません。
マッチ棒の頭くらいの大きさでしょうか?

 

このお香に使う「香木」ですが、これは
人が作り出すことが出来ない貴重なものです。

 

 

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「香木」とは?

ジンチョウゲ科の植物等が
災害や害虫などにより木の部分が侵された時
に、それを食い止めるための樹脂を出します。

 

その樹脂が凝結して、地中に埋もれて
いる長い時間のなかで誕生するもの
といわれています。

 

ここで「樹脂」と書いてありますが
本当に脂なんですよ。
伽羅などを銀葉の上にのせてたきますと
伽羅の木の中から、ジクジクと小さな泡
のようなものが出てくきますから。

 

不思議ですね〜。
木にとってのダメージ、つまり良くないことが
起こった時に、それを修復するために出す樹脂
が地中の中で長い長い時間、眠っているうちに
世にも香しい「香木」へと変身するとは!

 

「香木」の香りの主成分は、ベンジルアセトンや
テンペルアルコール類というものだそうです。

 

近年では、ジンコウオール他、9種類の香木特有の
化合物を検出することにも成功しているようですが。

 

はっきり言って、私はわかりません。
とにかく類いまれな良い香り、ということですね。

 

 

img031伽羅(写真/「山田松香木店」)

 

 

 

人間はつくることができない香木

一つだけいえることは、これは人が
真似の出来ない、自然だけが作り出す
ことのできる香りということです。

 

しかもこれらは日本ではできずに
東南アジア、インドなどの熱帯ジャングル
の中でしか作られません。

 

この香しい木の存在は昔から知られて
いたようで既に、15世紀の文書には
「香木」について記されています。

 

それによりますと、極上の伽羅は酋長が
選んだ人のみが採取することを許され、一般の
人は採取することは禁じられていたといいます。

 

もしこの禁を破って、密かに盗んで
売るようなことをしたら、その人は手を
切られる、という恐ろしいことも……。

 

極上の伽羅は金の値段より高価といわれ
ますので昔も、貴重品だったのでしょう。

 

 

mourikekoudougu400(写真/「Hop Web」)

 

 

 

大名家の香道具

この立派な香道具は、毛利斉凞(なりひろ)
の娘である、八重姫の婚礼道具の一つ
「十炷香箱(じっしゅこうばこ)」です。

 

1839(天保10)年、支藩徳山藩の藩主、
毛利元蕃(もとみつ)へ嫁ぐ時に
あつらえられたものだそうです。

 

彼女の父である、毛利斉凞は藩主を退いた
後も江戸にとどまり、葛飾に十万坪にも及ぶ
豪邸を構え優雅な隠居生活を送った人でした。

 

もっとも毛利斉凞は、八重姫の輿入れ前には
亡くなっていますが、華美と奢侈で有名な
徳川家斉の晩年ということもあり、大名家の
婚礼道具は豪華さを極めるものだったようです。

 

この香道具の全体の模様は、竹を菱形に編んだ
竹菱文様に梅の花を描いた、精巧かつ落ち着いた
美しさの大名の粋を極めた婚礼道具となっています。

 

中心にある30センチ四方の箱に、ここにある
全てのものが収まるような作りになっています。

 

香道は当時のお姫様にとっては
教養としての必須科目でした。
八重姫もお香のお稽古をしたことでしょう。

 

 

細川家の花卉円文散蒔絵十種香道具
(写真/「県からの便り」)

 

 

 

香木の分類を命じた足利義政 

昨日は自然が作り出すかぐわしい
香りの香木を紹介しました。
それらの香木は、それぞれの
香りによって分類されています。

 

それが「六国五味」といわれるものです
「六国五味」は「りっこくごみ」と読みます。
読んで字のごとし、「六つの国」と「五つの味」です。

 

この分類をしたのは、三条西実隆
(さんじょうにしさねたか)と彼の門下
である志野宗信といわれています。

 

京都の東山に銀閣寺を作った
足利義政の命によるものでした。

 

 

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為政者としては必ずしも有能だったとはいえない
足利義政ですが、芸術や美意識に関しては、卓越
したセンスを持った人物だったといわれています。

 

彼の援助のもとで香道、花道、茶道
などが体系化されました。

 

室町時代の初期の将軍、足利尊氏の臣下
に、佐々木道誉という人がいました。
「婆娑羅大名」という名前で有名ですね。

 

 

細川家の菱蒔絵香箪笥
(写真/「永青文庫美術館」)

 

 

婆娑羅とは、乱暴者で勝手放題、派手好み
と、いいとこなしのあだ名を付けられた
佐々木道誉ですが、彼はその財力で
多くの香木を収集していました。

 

彼の残した177種類の香木コレクションを
室町時代中期の、第8代将軍である足利義政
が分類を命じたことが、香道の成立に
大きな貢献をしたということです。

 

婆娑羅さんの佐々木道誉も
間接的には香道成立の協力者(?)
ともいえるかもしれませんね。

 

 

spring_3細川家の九曜紋散蒔絵香枕
(写真/「永青文庫美術館」)

 

 

 

香木の分類「六国五味」のうちの「六国」

さてその「六国五味」ですが、「六国」の
名前を漢字で書きますと「なんじゃ?」と
思うようなものなのですが、読み方を聞くと
なんとなく想像できるものもあります。

 

六つの国、ですからそれぞれの産出国の
地名や、その国の港の名前がついています。

 

ただし、これは当時のものであって
現在の産出国とは異なっているようです。

 

香木の出産地地図(地図/「Kaori shop」)

 

 

(1)まずは「伽羅(きゃら)」です。
「伽羅」という名前は有名ですね。

 

お香のことを知らない人でも、どこかで
「伽羅」という言葉は聞いていることでしょう。

 

「伽羅」は、唯一、産出国の名前から
由来したものではない香木でもあります。
産出国はベトナム、カンボジア。

 

「伽羅」というのは、サンスクリット語の
「Kara(黒い)」kyara2kyara1という意味からきている
名前だそうです。
(香木の写真は全て「香筵雅遊」から拝借しました)

 

 

(2)は「羅国(らこく)」。rakoku2rakoku1
これは今のタイの国の一部をさすそうです。

 

 

(3)「真那蛮(まなばん)」。ban2ban1
タイ、マレーシア、ポルトガルなどの
インド南西のマラバル地方。

 

 

(4)「真那伽(まなか)」。manaka2manaka1
マレー半島のマラッカ。

 

 

(5)「佐曽羅(さそら)」。sasora2sasora1
チモール島、もしくはインドの
サッソールといわれています。

 

 

(6)「寸門多羅(すもたら)」。sumotara
スマトラのことで、これが一番似ていますね。

 

 

と、右に香木の写真をつけましたが
何やらフローリングの見本帳みたい
になってしまいましたね。

 

 

 

「五味」

そして次は「六国五味」の「五味」の方ですが
これは「あまい」「すっぱい」「からい」
「にがい」「しおからい」です。

 

これを
「甘(かん)」「酸(さん)」「辛(しん)」
「苦(く)」「鹹(かん)」と書きます。

 

「伽羅(きゃら)」   ——— 辛い
「羅国(らこく)」   ——— 甘い
「真那蛮(まなばん)」 —— 酸っぱい
「真那伽(まなか)」  —— 無
         (これは無しということ)
「佐曽羅(さそら)」  —— 鹹い
「寸門多羅(すもたら)」—— 苦い

 

 

04-shiso(絵/「お香の会」)

 

 

とこんなふうに分類されているのですが
実は、この分類の仕方も流派や個人に
よっても異なっているようで、上に
あげたものは、ほんの一例に過ぎません。

 

例えば「伽羅」ですが、これは「辛い」
という分類というように私は習いました
が、「苦い」とする説もあるそうです。

 

「甘い」とか「苦い」とかでしたが
少々わかるような気もするのですが
「鹹い(しおからい)」とはどんな香りでしょう?

 

また、「真那蛮」の「無」無しとは
どういうことよ?、と聞いてみたくなりますね。

 

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