精神病院をなくしたイタリアと、世界の精神病床の1/5を有する日本

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精神病院がないイタリア

数年前のことですが、イタリア語を習って
いる人から、「イタリアには精神病棟がない
んだよ」と教えてもらったことがありました。

 

イタリアでは1970年代に、脱精神科病院を
掲げて政策転換し、1978年のバザーリア法
(精神科医、フランコ・バザーリアの改革に
より)成立、精神病院の開設は禁止されます。

 

最小限存在している強制入院は、あくまでも
例外的対応にとどめられ、1998年には
イタリア全土で精神病院が閉鎖されました。

 

 

イタリアの菜花「チーマディラーバ」

 

 

 

総合病院の中の精神病床も16床まで

精神病院はなくなりましたが、精神病床が
ゼロというわけではなく、総合病院の中に
「SPDC」と呼ばれる精神病床があります。

 

身体疾患の原因により精神症状が出ている人、
例えば脳炎などの原因から、統合失調症のよう
に見える精神症状を呈する人のための病床。

 

ただし、この総合病院の精神病床が増えて
実質が精神病院のようになるのを避けるため
に、SPCDは最大16床と決められています。

 

 

イタリアントマト「ゼブラ」

 

 

 

日本は世界一精神科病床が多い国

一方、日本はといいますと世界一精神科
病床の多い国として知られています。

 

世界の精神科病床の約2割に当たる約35万床
もの精神病床があり、入院期間が20年以上
という人も3万人以上いるということ。

 

国は、72,000人は、退院先さえあれば退院
できる「社会的入院」であるとしています。

 

 

 

 

 

「隔離」から「地域ケアシステム」へ

人間を一つのところに閉じ込めるシステムは
人権が保障されない状況が必ず生じてしまい
屈辱的で人間の尊厳を奪う現実がありました。

 

幻覚や妄想を主症状とする「統合失調症」は
100人に1人が発症し、生活環境により悪化も
すれば、改善もする病気だといいます。

 

単に脳機能への生物学的な治療だけでは解決
が困難であり、疾患の根本にある「人間的な
苦悩」に対する人間的な関わりや、社会で
存在を承認されることが改善を促します。

 

ほとんどの先進国では、精神疾患のある人々
を隔離・収容し、時には人生の大半を閉鎖
病棟で過ごすという状況もありましたが、

 

1960年代頃からは、地域ケアに力を入れる
ようになり、様々な地域でケアシステムの
試みがなされるようになっています。

 

 

 

 

 

始まりはほぼ一緒だったイタリアと日本

現在では対極にあるようなイタリアと
日本ですが、精神医療関連の法律が
のは、ほぼ同時期だったようです。

 

イタリア
1904年 法律第36号「ジョリエッティ法」

日本
1900年 精神病者監護法

 

この2つの法律は、自発的入院の規定
はなく強制入院のみが定められたもの。

 

 

 

 

 

閉鎖病棟内では虐待事件も発生

精神科病床を増やし続けた日本は、敗戦後の
高度成長期には、労働力の確保が優先され、
労働力とならない人々に対して施設収容を
推進する施策がとられました。

 

本人の同意によらない強制入院が合法的
に推進された歴史があったのです。

 

1970年代以降、閉鎖病棟内で発生する虐待事件
が社会問題となり、WHO(世界保健機構)を
はじめとする国連機関から度重なる指摘を受け
ますが、抜本的な法改正はなされませんでした。

 

 

 

 

 

トリエステ

始まりはほぼ同じようだったイタリアは
現在、精神病院のない社会を、どのよう
に維持しているのでしょう。

 

地域ごとにかなりの違いがあるという
ことですが、例えばトリエステでは
精神障害のある人を地域で支えています。

 

精神保健センターが4か所に設置され、医師
・看護師・心理士等、30人余のスタッフの
連日24時間対応の体制が整えられています。

 

職員は白衣などのユニフォームは着用せず、
同じ目線で接することのできるよう、受付も
カウンターなどはなくテーブルがあるだけ。

 

 

 

 

 

「当事者の人間性を回復」を重視

精神保健が他の地域とは異なるトリエステ
では、バザーリア改革当時、現場にいた人
たちが「長老」として存在しています。

 

そして現場で常に議論を重ねているため
基本的な考え方がブレないとのこと。

 

日本の精神科医療では「精神症状の改善」
のために力を尽くしていますが、
トリエステでは「当事者の人間性を回復」する
ことが、もっとも重要な課題とされています。

 

 

 

 

 

トレント

20年前は苦情の多かったトレントの精神保健
サービスは現在、評価されるまでになりました。

 

10年前に始まった「UFE(当事者・Utenti、
家族・Familiari、専門家・Esperti)」
という取り組みがあります。

 

これは、専門職はもちろん、精神疾患の
当事者にも経験と知恵があり、家族にも
身近で支えてきた経験と知恵があるとの考え
から、精神保健局の正規職員として当事者、
家族を雇用するようになりました。

 

当事者、家族が専門職と同じレベルで仕事
をするに際しては、当初、専門職からの
強い反発もあったそうですが、UFEの
取り組みのなかで変わってゆきます。

 

 

 

 

 

「当事者が問題」と捉えずに「問題を持った人」と捉える

「当事者自身を問題として捉える」のではなく
「当事者を問題を持った人」と捉えることにより
抱えた問題を解決できるとの確信が生まれる。

 

現在は病棟内で働く当事者のお一人
は、こんな風に表現しています。

 

「朝出勤して、仕事をする。
人に対して愛情深く接しているので、
仕事を終えて自宅に帰る時の方がエネ
ルギーが再生しているような体験を
している」と。

 

 

 

 

 

思考を変える→現実を変えることができる

イタリアの精神保健サービスを訪ねた
精神科医の上野秀樹さんは、

 

「『思考を変えることによって現実を
変えることができる』ということでした。
一番大切な価値をどう考えるか、それに
よって現実を大きく変えることができる
のです。
バザーリアの言葉『病気を括弧でくくって、
人をみる』、日本でも当事者の人間性の
回復をもっとも重要な価値として精神科
医療を行う時が来ています」

と記しています。

 

 

 

 

 

アレッツォ

アレッツォの精神保健センター長
であるダルコ医師の言葉です。

 

「人の痛みに応えることが、私たちの仕事。
そのためには、信頼関係が大切です。
そして家庭に出向き、予防を重視します」

 

幻聴や妄想がある時、それは単なる「疾患」
ではなく、人間関係の亀裂、失職、貧困と
いう「人生の苦悩」であることから、

 

「我々は、言葉をなくした人たちの沈黙の
翻訳者になることから始めなければならない」

 

 

 

 

(参照/「国際人権ひろば」2013.5 吉池毅志
  「大阪精神医療人権センター」
           2019.10.19 上野秀樹)

 

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