名人 茂山千作の「佐渡狐」を見た日に出会った人 

「あぷりのお茶会 赤坂・麻布・六本木」へようこそ!

 

120616ta「遠山に菜の花文様肩衣」茂山千作家所蔵 溜池山王駅

 

 

カステラ巻きから、芝能へ 

前回、文明堂のカステラ巻きを御紹介しましたが、
カステラ巻きのまわりをぐるっと巻いてあるのは
文明堂の三笠山だということでした。

 

そこから三笠山、阿倍仲麻呂の

「天の原 ふりさけ見れば春日なる
  三笠の山に出(い)でし月かも」

という歌まできた時に、以前に
行った春日を思い出しました。

 

といってもかなり前のことですが、時期的には
ちょうと今頃だったような気がします。

 

 

130728tokusatameikesannouekiato「木賊と松皮の段文様肩衣」
林原美術館所蔵 溜池山王駅

 

 

 

おしばいの語源

「薪能」という言葉は皆さん御存知でしょう。
赤い火の粉が暗い空に舞い、パチパチと
勢いの良い音をたてて燃える薪の下での
薪能は各地で行われています。

 

私が一度だけ行った春日での
催しは、夜ではなく昼間。

 

場所ははっきりとは覚えていないのです
が「芝能」といって、椅子や畳の上ではなく
芝生に直にすわって拝見するものでした。

 

歌舞伎等の演劇を「おしばい」といいますね。
この「おしばい」、「芝居」という言葉は
芝生に居る、座っているという
ところから来た言葉だそうです。

 

 

blog_import_515363f0ad61e「垣に瓢箪文様肩衣」
茂山千五郎家 溜池山王駅

 

 

 

果てしなく広がる空に響き渡る声

この奈良の春日での芝能は、私がそれまで見て
体験していた狂言とは全く趣を異にしていました。
芝能をあえて一言で表現しますと
「おおらかさ」でしょうか。

 

それは、おそらく狂言が出来た頃、生まれた
ばかりの狂言というのはこんな風に演じられた
のではないかと思わせるものでした。

 

 

imgres杉並能舞台

 

 

私は美の結集ともいうべき完成された
能楽堂の美しさが殊の外好きです。

 

ですがこの芝能のように大空の下、芝生に座って
初対面の外国の人ともいわば「腹を抱えて笑いあう」
といったような体験も格別のもの。

 

また演者が最高で、私の大好きな茂山千五郎家。
出し物は有名な「佐渡狐」でした。

 

 

12.6.16.tameikesann「蜻蛉」 

 

 

 

佐渡に狐はいる? いない?

年貢を納める旅の途中、佐渡と越後の
お百姓さんが道連れになります。

 

越後のお百姓さんの「佐渡には狐がいないだろう」
との言葉に、佐渡のお百姓さんは「いる」と
言い張って譲らないので、都の年貢の取次ぎ役人
(奏者)に決めてもらうことにしました。

 

佐渡のお百姓さんは、事前に役人(奏者)に
賄賂を渡しておいたために、奏者は
「佐渡に狐はいる」と二人の前で言い渡します。

 

納得のいかない越後のお百姓さんは
「それならば狐の形は?」等々の質問を
佐渡のお百姓さんに浴びせます。

 

その時に奏者が、佐渡のお百姓さんに
それとなく教える仕草等が、例えようもなく
おかしく「佐渡狐」のみどころでもあります。

 

 

120616tame「三つ兎文様肩衣」
野村万蔵家所蔵 溜池山王駅

 

 

 

演ずる人、催しを支える人

何度も見ているお話で、次に何を言うか、
どうなるか充分わかっているというのに
思わず仰け反って笑わずにはいられないおかしさ。

 

その場で初めて会い、再び会う
こともない人と笑い合う楽しさ。

 

たった一度の春日の芝能は、本当に楽しい経験でした。
ですが、素晴らしかったのは
それだけではありませんでした。

 

 

120813hagi「琴と萩文様肩衣」
名古屋狂言共同社所蔵 溜池山王駅

 

 

 

今、再びお目にかかれて……

その狂言が始まる前の、まだ準備段階でのこと。
私を芝能に連れて行ってくれた人が
その催しの関係者と何やら話していました。

 

するとその催しの主催者であるらしい男性が
私達の目の前で文字を書いて説明してくれます。

 

彼には、手首から先が両方ともありませんでした。
その方は両方の手首で筆記用具を
挟んで文字を書き始めたのです。

 

すばらしい達筆でした。
私はその字の美しさ驚きました。

 

 

120616tameikesannou「秋野に月文様肩衣」
茂山千作家所蔵 溜池山王駅

 

 

しかし、それ以上に感動したのは、他の人とは
違っている手を全くためらう様子も見せず
目の前で文字を書いて下さるその方に
私は言葉にはならない感動を覚えました。

 

私は今回、春日の芝能を思い出し、同時に
その方のことを思い出したのですが
狂言のことを検索している時に、思いがけず
その方の記事が目に飛び込んできました。

 

石原昌和 NPO法人奈良能理事長という方でした。
石原昌和さんは、古い伝統と格式を持った
能奉行のお家にお生まれになったそうです。

 

ブログをしていたおかげで、お名前も
存じ上げなかった石原昌和さんと
ここで再び出会えたような嬉しさに感謝です。

 

☆この記事をアップする1時間半前に、「佐渡狐」で
佐渡のお百姓さんを演じられた茂山千作さんが
2013年5月23日にお亡くなりになったことを知りました。

 

前回の「『月』溜池山王駅アート
狂言師・山本則直」
さんに続き
大好きな狂言師の方が次々と……。

 

御冥福をお祈り致します。 合掌

 




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