斎藤環医師による「家庭内暴力への対処方法」

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家庭内暴力の対処方法

放置すると殺傷事件まで発展しかねない危険
もありますが、精神科医である斎藤環筑波大
教授によりますと、適切に対応すれば
そのほとんどは解決可能ということです。

 

今日は、斎藤環教授が書かれた「これで大体
おさまる」という方法を御紹介しましょう。

 

ここでの家庭内暴力とは、病理性を
伴わない、幻覚や妄想のないもの
にかぎっての治療的対応です。

 

 

 

 

 

奴隷のように扱われる母親も

些細なことや、理由もなく暴力が突発する
家では、不自然でこわばった沈黙が支配し
家族は本人のちょっとした表情や仕草にも
怯えながら暮らす日々を強いられています。

 

特に母親は暴力を受けやすく何年も、奴隷
同然の扱いを受けることが珍しくありません。
真夜中に叩き起こされ、本人が唐突に思い出
し恨みつらみを何時間も話すこともあります。

 

暴力を振るうことで自らも傷つき、暴力を
振るう自分が許せない、と自責の念があり
つつも、そんな自分を育てたのは両親なの
だとの悪循環のなかにいます。

 

 

 

 

 

基本方針は「暴力の拒否」

中には暴力は甘んじて受けなさいと
いう専門家もいますが、それは間違い。

 

間違っているだけではなく、時には暴力を
助長する役目も果たし、「進んで暴力に身
を晒す」行為は、危険な挑発に他なりません。

 

とはいえ暴力との「対決」はダメ。
暴力は暴力の連鎖しか生み出しません
ので、家庭内暴力を力で制圧する試み
はほとんど確実に失敗します。

 

 

 

 

 

強制入院は失敗に終わる

また、すぐに入院治療をと焦るのも禁物
で、本人が納得した場合にのみ有効です。
強制入院(医療保護入院)はほぼ失敗します。

 

このような入院の場合、病院内では全く
「良い子」として振る舞い、問題行動の
ない患者さんの行動制限は法的に不可能。

 

長くて1か月程度の退院後、家族への恨み
を募らせて帰宅した本人が、以前にも増し
て激しい暴力を振るうのは時間の問題です。

 

家庭内暴力について、重症度、難しさ
を決めるのは暴力の内容ではなく
「暴力の続いている期間」。

 

かなり激しいものでも、始まって数週間
ならば対処は比較的容易ですが、さほど
激しくなくても、何年も続いている慢性的
な暴力の対応は難しいものとなります。

 

 

 

 

 

背景の理解

まず暴力の背景を十分に理解しておく。
客観的な事実はどうあれ、本人の中では
これまでの人生が惨憺たるものだった
との思いが強くあります。

 

受験の失敗、自分の容貌、恋人や友人
ができない、望む会社に入れない等、
失敗の連続のように捉えているはず。

 

彼らがかろうじて自殺の誘惑に陥らずに
済んでいるのは、まさに「失敗」を他人
のせいにすることによってです。

 

 

 

 

 

底にある感情は「悲しみ」

しかし本人は必ずしも、こうなったのは親
のせいと確信しているわけではなく、殆ど
全ての人が「自分は親に迷惑をかけ続けて
きたダメな人間である」と告白します。

 

これもまた彼らの本心であり、このよう
に自責と他責の間で引き裂かれ、心安ら
ぐことのない日々を過ごしています。

 

精神分析家の神田橋條治氏が指摘する
ように、家庭内暴力の背後にある感情は
「憎しみ」ではなく「悲しみ」なのです。

 

 

 

 

 

葛藤のありようを共感的に理解

初期の暴力の沈静化は「刺激しないこと」
本人にとって何が刺激になりうるかを
正確に知っておく必要があります。

 

皮肉や嫌味、あるいは本人を傷つける
ような冗談を口にする、ついつい決め
つけるような断定的な話し方をする、
こうしたことも悪い刺激になりえます。

 

暴力を振るわずにはいられないほどの
「悲しみ」がどのように起こってきたか。

 

本人の劣等感を刺激せず、「恥をかかせ
ない」ために気をつけることを知り
ひきこもりと共通する彼らの葛藤の
ありようを共感的に理解するところ
から始めなければなりません。

 

ごく初期ですと、これだけで
きれいに解消することも。

 

 

 

 

 

過去の恨みつらみに十分耳を傾ける

暴力は完全に拒否し、言葉による
訴えはしっかりと受容します。

 

「耳を傾ける」と「言いなりになる」
ことは別で、本人の恨みを言葉として
十分に聞き取ること、と同時にその
言葉に振り回されないことが大切。

 

時には、話し合う姿勢を示す
だけでも暴力は沈静化します。

 

 

 

 

 

長期にわたっている暴力

慢性化に至っている場合、対応は格段に
厳しいものとなり小手先の対応を変える
程度ではビクともしないことが多い。

 

それ以前に、親がすくんで身動きが
とれず、対応を変えることすら難しい
状況に置かれている場合もあります。

 

誰かに暴力の仲裁役を頼むという意味
ではなく、ただ家庭の中に他人を介在
させることも一つの方法。

 

母親へ激しい暴力を振るっていた息子
が、妹の婚約者の同居と同時に暴力
がなくなったケースもありました。

 

本人は他人が入ることをひどく嫌います
が、一旦受け入れるとそれが暴力を
鎮めるきっかけになりやすいのです。

 

 

 

 

 

「他人」には「警察」も含まれる

ただ「警察が何とかしてくれる」から
ではなく、警察官が駆けつけた時に
暴力はおさまっていることがほとんど。

 

警察は本人に説諭する位しかできませんが
「家族は場合によっては警察に通報する
覚悟がある」ことが理解させるのが重要。

 

「それをしたら、後の仕返しがこわい」
と考えてできない家族も多いですが
これは家族の態度がダメです。

 

通報すべき時は断固として通報し、それを
繰り返す毅然とした態度があれば仕返し
のおそれはほとんどありません。

 

 

 

 

 

暴力の拒否のための「家族の避難」

暴力と対決せずに拒否するためには
暴力の現場から避難することです。

 

家族には多大な負担ですが、適切に行え
ば、かなり確実な効果が期待できます。
がリスクもあり、タイミングを誤ると
失敗する可能性も十分あることに注意。

 

治療としての「避難」を実践する場合
は専門家と連携することが必要です。

 

避難が有効なのは、あくまでも適切に
なされた場合のみ、くれぐれも「ただ
逃げればいい」との短絡的な理解は
しないでください。

 

 

 

 

 

以下を専門家との密接な連携のもとで行う

・治療者と両親の間で、避難方針と方法
について十分に打ち合わせをする

 

・大きな暴力をきっかけにして避難する
(きっかけなしの避難はむしろ危険)

 

・怪我をしたような場合、少々大げさ
でも入院する

 

・必ず、暴力の当日中に避難を完了する

 

・当日中に、必ず親から本人に電話を入れる

・電話では「これから定期的に連絡する、
生活の心配はいらない、いずれは帰るが
いつになるかはわからない、どこにいる
かも教えられない、暴力が完全におさる
までは帰らない」と伝える

 

・この方針は本人の治療のために専門家と
相談し、家族全員で決めたことを伝える

 

・その後は定期的に5分間だけの電話をし
時間がきたら途中でも切る

 

・本人が落ち着いたタイミングを見計らい
一時的な帰宅や外泊を繰り返す

 

・外泊時の様子で、特に暴力もなく
また母親と穏やかに会話できる状態
で安定したら、帰宅する

 

 

 

 

親の側は、暴力や脅しに屈せず
誠実で毅然とした態度でことにあたる

 

帰宅までに要する期間は様々だが
軽ければ1ヶ月程度でも有効で、長く
ても半年程で帰宅できることが多い

 

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