刑務所に入りたがる年金生活者

本当?!

2019年3月18日に「BBC News JAPAN」の記事の
内容は、日本のマスコミではどの程度、報じられている
のかはわかりませんが、私には衝撃的なものでした。

 

タイトルは、
「日本の年金生活者が刑務所に入りたがる理由」です。
記事によりますと、日本では高齢者・65歳以上の犯罪
が、この20年ほど、上昇の一途をたどっているという
ことでした。

 

添えられているグラフを見ますと……、
なんとまさにその通りでした。
このグラフは、1990〜2016年までの全犯罪者の年齢別
(年代別)割合を示したものです。

 

 

グラフで歴然

一番下の「」は、20歳以下で、順番に20〜29歳、
30〜39歳、40〜49歳、50〜59歳となっていますが
次は「60〜69歳」ではなく「60〜64歳」、そして
次が「65歳以上」です。
これは、今回の記事が「65歳以上」という括りだった
ため、グラフもそのように作成したのだと思われます。

 

 

 

 

ただ、そうしますと「■  60〜64歳」と「■  65歳以上」
を合わせると、すごい数になることがわかります。
というようなわけで一目瞭然、日本はここ四半世紀
に関しては、20歳以下の犯罪は減少傾向にあるのに
対して、65歳以上のそれが著しく増えているのが見て
とれるのです。

 

 

なぜ、高齢者の犯罪が増えているのか?

そして、肝心の理由です。
日本の65歳以上の人が、突然凶悪になったのでも
悪い人間に化してしまったのでもありません。
理由は、貧困、貧しさによるものでした。

 

広島県内の更生保護施設(刑務所を出て社会
復帰をする元受刑者のための施設)でタカタ
トシオさん(69歳)は、
「罪を犯したのは貧しかったから。
たとえ塀の中でもいい、ただで住める場所が
欲しかった」
とBBCの記者に語りました。

 

タカタさんは、自転車を拝借して警察まで
それに乗って行き、警察官に、
「ほら、こいつを盗んできた」
と言うと、タカタさんは当時、62歳で初犯でしたが
1年の刑が言い渡されました。

 

その最初の刑期が終わり出所した彼は、公園に行き、
数人の人がいるところで、刃物を見せたのです。
危害を加えるつもりは一切ありませんでした。
この中の誰かが警察に電話をすればいいと思って
いると、1人の人が通報。

 

 

タカタトシオさん、69歳
後ろに飾ってあるのはタカタさんが描いた絵

 

 

「日本の犯罪に見られる際立った風潮の代表例」

ここ8年間のうち、合わせて半分を刑務所で過ごし
たタカタさんに、刑務所にいるのが好きなのかと
尋ねると、好きではないが、刑務所はただで寝泊ま
りができ、その間の年金はたまっているので、それ
ほどの苦労ではないと答えたそうです。

 

そして驚くべきことには、このようなケースは、
「日本の犯罪に見られる際立った風潮の代表例」
だということ。

 

1997年には、犯罪20件に1件の割合に過ぎなかった
66歳以上の犯罪比率が、20年後には5件に1件を
超える数となっていました。
人口全体に占める65歳以上の割合が増えたペース
を、はるかに上回る上昇ぶりです。

 

 

 

 

食べ物もお金もない

罪を犯す高齢者の多くは、タカタさんと同じように
常習犯で、2016年に有罪が確定した65歳以上の
2500人中、3分の1余りが、過去に6回以上有罪に
なっていたという驚くべき数字は、今回初めて
私は知りました。
日本は、そんなことになっていたのですね。

 

インタビューに答えてくれたもう一人の女性、
70歳のケイコさん(仮名)もまた同様。
夫とうまくいかず、住む家も身を寄せる先もなく
もう盗みをするしかなかったということです。
足元さえおぼつかないような80代の女性たちも
食べ物がない、お金がないという理由で罪を犯し
ているといいます。

 

 

 

 

少なすぎる日本の年金

香港のコンヘッレ流ティング会社、カスタム・
プロダクツの東京事務所、元幹部であるあースト
ラリア出身の人口統計学専門家、マイケル・
ニューマンさんによれば、日本の基礎年金で支給
される額は「ほんのわずか」に過ぎず、これで
生活していくのはとても大変だと説明します。

 

ニューマンさんの、2016年の論文での試算では、
年金以外に収入のない人は、家賃と食費、医療費
を払っただけで赤字になるという結果でした。

 

「年金暮らしのお年寄りは子どもの重荷になり
たくないと思っている。
公的年金でやっていけなければ、重荷にならない
方法はほぼ一つだけ、刑務所へ駆け込むしかない
と感じている」

 

犯罪を繰り返すのは、1日3食ちゃんと食べられて
請求書も来ない場所、つまり「刑務所に舞い戻る
ため」だと、ニューマンさんは指摘します。
「押し出されるから、また自分から転がり込む。
およそそんな感じだ」と。

 

 

 

 

高齢者の犯罪急増の精神面の問題?

またニューマン氏は、高齢者の自殺が増えている
ことを、「身を引くのが務め」との思いからだと
説明しています。
高齢者の犯罪急増の原因は、経済面ではなく
精神面の影響が大きいという、更生保護施設
「ウィズ広島」の山田勘一理事長の意見もあります。

 

確かにタカタさんは、兄弟と連絡は取れず、2回の
離婚で3人いる子どもたちとも音信不通。
妻子がいれば事情が変わったか?、との質問には、
「そう思う。
妻子がそばで支えてくれていたら、こんなことは
しなかった」
と答えています。

 

府中刑務所教育部の谷澤正次さんは、高齢者
向けの講座を紹介してくれました。
一つの講座は、ヒット曲のカラオケですが、
「いのちの理由」という曲について、受刑者も
一緒に歌い、生まれてきた意味を思い、感極まった
表情の受刑者もいたといいます。

 

本当の人生は刑務所の外にあり、そこに幸せが
ある、と伝えたいという谷澤さん。
それでも目刑務所の生活の方がいい、とたくさん
の受刑者が戻ってくる現実。

 

 

 

 

政府のお金のつかい方

ニューマンさんは、裁判手続きや収監にコストを
かけずに、高齢者の面倒を見る方にお金をかけた
方がずっといいし、安上がりだといいます。
高齢者向けの産業・住宅複合コミュニティーを
作る費用の見積もりでは、政府が現在、費やして
いる額より、はるかに少ないコストで可能だと指摘。

 

またニューマンさんは、軽い窃盗罪でも刑務所
へ送られることが多いのは、罪に応じた罰か
どうかを考えると、やや常識はずれの感がある
とも話します。
1本370円の瓶入り唐辛子を盗み、これは2回目
の犯行でしたが、2年の刑期を言い渡されると
いうように。

 

そこで冒頭のタカタさんですが、記者が尋ねると、
「もうこれでおしまいだ。
こういうことはもうしたくない。
それにもうすぐ70になる。
次回は歳をとって、体も弱っているだろう。
もうあんなことはしない」
と答えたということです。

 

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