手術後の女性患者の乳首を舐めたと訴えられて
いた男性医師の無罪判決が、2019年2月20日に
東京地裁で出ました。
訴えられていたのは、足立区の病院の43歳の医師。
「今、正直なところホッとしている。
肩の荷が下りたという気持ち。
100日以上、警察もしくは拘置所で身体を拘束され、
社会的な信用を失い、職を失い、大変な思いを
しました」
と判決後に語っています。
2016年5月に、乳がんの手術をした30代の女性
患者に対し、全身麻酔の影響で意識が朦朧として
いる時に胸を舐められるなどしたと訴えられていま
したが、裁判では女性が「せん妄」状態だったと
して、医師に無罪判決が言い渡されたものです。
「せん妄」とは、入院中の2割から3割の患者に出現
する精神症状のことで、その症状うちの3割から5割
に、『幻視』『幻覚』『妄想』が出るそうです。
乳腺に関する手術は、術後のせん妄が比較的多い
割合で出るとする調査もあります。
イギリスの麻酔雑誌に掲載された論便によりますと
1359例の成人患者(15〜99歳)を対象に行った調査
では、せん妄を発症したのは64例(4.7%)。
せん妄の危険因子となるものとしては、
1 術前のベンゾジアゼピン(麻酔)投与、
2 乳房手術
3 腹部手術
4 長時間手術で、年齢的な優位差はない
ということです。
医師側の代理人である、趙誠峰弁護士は、
「「彼女が体験したせん妄下での出来事は、麻酔の
副作用かもしれないが、(彼女は)医学的なせん妄
の被害者。
一方で被告人になった外科医の方は、自分がやって
いないことで身体的拘束・刑事訴追されるという冤罪
の被害者と考えていた。
彼女がウソつきだとか、わざとウソをついているとは
全く考えていない。
せん妄下で、彼女の中ではまさに現実に体験した
ことを話していると思った。
今回のようなケースは海外でも報告されている」
と話しています。
また、東京都の医師団体、東京保険医協会は
「患者さんの診察や手術をした後に、こんなことに
巻き込まれるかもしれない、いつ警察に逮捕される
かということになれば、医療をやって入られますか」
と訴えました。
裁判で争われたのは、被害を訴えた女性の証言
の信用性とDNA型鑑定の結果をどう見るかでした。
女性は、手術後に医師と2人きりになった時に乳首
を舐められ、医師は自慰行為に及んでいたと
訴えています。
弁護側は、当時4人部屋は満床で、看護婦も出入り
して、カーテンのすぐそばには女性の家族もいた
ことから、犯行は不可能と主張。
判決は、女性がせん妄の状態で、性的な幻覚を体験
していた可能性もあるとして、その証言の信用性に
疑問があるとしています。
公判では、
1 女性の証言の信用性
2 DNA鑑定などが、科学的な証拠として認められるか
が争点となりました。
これに対して東京地裁は、
1 女性がせん妄状態で、性的な幻覚を見た可能性
* がある
2 女性の乳首から検出されたDNAは、触診や別の
* 医師との会話などで付着した可能性があり、
DNA鑑定の信用性に疑いがある
として、男性医師に無罪を言い渡したものです。
実は、この裁判が起こされたと聞いた時に私が思った
ことは、「お医者さんも大変だなぁ」というのが正直な
感想でした。
そして今回の無罪判決を聞いて、男性医師が社会的
信用のみならず、職まで失ったと聞き驚きました。
これは病院側からやめるように言われたのか、自ら
迷惑をかけたくない、と申し出たものなのかわかりま
せんが、いずれにせよ気の毒だなあと思ったのです。
この判決を受け、女性と代理人は東京、霞が関の
司法記者クラブで会見を開きましたが、女性は、
せん妄状態に陥っていたということを否定しました。
当日、女性はLINEで知人に連絡を取り、知人が警察
に通報し、駆けつけた警察官が、左乳首付近から
微物を採取。
女性側の上谷さくら弁護士は、
「判決は、非常に雑な事実認定で驚いている。
病院側が、被害者の証言だけで、逮捕・起訴した
と喧伝しているので、そのような事件と誤解されて
いるが、客観的証拠があって逮捕に至っている。
遺憾に思う。」
「こんなにも細部も荒いというか雑というか、誤った
認定を見たことがなくて、心の底から驚いている。
この事件で無罪になるなら、性犯罪は立件でき
ない」
と話しました。
検察は、医師のDNAが含まれる唾液および
口腔内細胞が検出されたと主張。
検査を行った研究員は、経験豊富で知識や技術、
技量は充分などと、官邸の信用性を強調し、
被害を訴える女性の証言も信用性が高いとして
医師に懲役3年を求刑していました。
女性は、
「無罪判決には、本当にびっくりしています。
たしかに、この事件はみなさんから見ても、特殊な
事件だろうと思います。
まさか病室で医師がそういうことをするわけない
だろうと。
だけど、本当に起こってしまって、私もその時
『誰も絶対に信じてくれない』と思いました。
だからDNAを採取しないといけないと思いました。
根拠がなかったら、取り合ってもらえないし、きっと
『頭がおかしい』と言われてしまうと思ったので。
すごく気持ち悪かったけれど、なめられたところを
そのままにして、警察が来るまで我慢しました。
やっとDNA(鑑定の結果)が出て、警察の人もまとも
に取り合ってくれるようになって、ここまでこれたん
です。
だけど、なぜか、DNA自体が証拠にならないと
言われて、無罪になってしまった。
これが無罪と言われるなら、性犯罪被害者は今後
どうやって性犯罪にあったことを立証するのですか」
と涙ながらに語り、検察による控訴を望んでいると
いうことです。
確かに女性がせん妄状態だったのを「せん妄では
なかった」と勘違いしているのかもしれませんが、
警察が採取したという微物が、判決にあるような
「医師との会話などで付着した可能性」という程度
のものなのかは、少々疑問に思うところ。
ネットでは、
「金が欲しいだけだろ」
「女が言ったことをとりあえず信じるなど、とても
法治国家とは思えない」
等々、女性を非難する声が圧倒的です。
女性の胸には、今もしこりがあるそうですが、病院
に行けない状況が続いているということです。